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板硝子協会 国際ガラス年記念講演会を開催

2022.12.05

講演会の模様
挨拶する伊東氏
清家氏
丸山氏
井上氏
安井氏
 国連の「国際ガラス年2022」を記念する板硝子協会主催の「建築ガラス記念講演会」が11月28日(月)、東京都港区三田の住友不動産三田ツインビル西館ベルサール三田で開かれた。建築関係の5人の講師がガラスに関わる話を披露した。
 午後1時半に開会した講演会には板ガラス業界を中心に120人が対面で出席し、620余人がリモートで視聴した。板硝子協会の池田直輝調査役が司会を務めた。
 冒頭、同協会の伊東弘之専務理事は「ガラスはメソポタニア文明の時代から人間の生活を支えてきた。現代ではありとあらゆる所に利用が広がっていて、空気のような存在。人類の社会生活上、欠かすことのできない存在となっている」とあいさつした。
 伊東氏は続いて、国連が定めた国際ガラス年の意義について「ガラス材料とガラス産業の過去、現在、未来を称えて祝福し、ガラスの科学、芸術、文化に関わる様々なイベントに取り組むこと。あらゆる地域の持続性ある発展に貢献し、次世代を担う若者のための国際協調の枠組みをつくること」と指摘。その上で「日本でも今年、ガラス年にまつわるたくさんのイベントが開かれてきた」と述べた。
 講演会では最初に、東京大学大学院新領域創成科学研究科の清家剛教授が「ガラスのリサイクル~EUの事例から日本の今後を考える~」と題し講演。清家氏は、ガラス産業連合会が2006年に実施した「ドイツを中心としたEUにおけるガラスリサイクル、ガラス瓶のリサイクル調査」を基に話を進めた。
 調査結果によると、欧州では板ガラスより瓶ガラスの生産量が多い。また、ドイツでのリサイクル率は非常に高く、サンゴバン・オーバーランド社のカレット利用率は平均75%以上に及ぶ。そして、リサイクルには(子どものころからの)教育が重要としている。
 板ガラスのリサイクルについては2007年の調査を基に、具体例としてオランダにある非営利の管理運営機関は国内の廃ガラスの約7割を回収。その多くはベルギーの民間会社に運ばれ、年間15万トンのカレットを製造している。板ガラス業者に向けては「自社の他工場内でのリサイクルは可能であり、廃棄コストを考慮すると再利用した方が有利である」と報告している。
 ドイツの樹脂サッシのリサイクルについては「自ら取り組むことで社会的な圧力から逃れ、リサイクル率を自ら目標設定できる。結果として他国からのリサイクルも一部請け負っている」とした。「気になる課題」としては大量に普及した太陽光発電を挙げた。まとめでは「複合化した建材の代表例。リユースが望ましいが、おそらく廃棄。リサイクルする場合には大量のガラスが発生する」と指摘した。
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 清家氏の後、京都大学防災研究所気象・水象災害研究部門耐風構造研究分野の丸山敬教授が登壇し、「ガラスの強風被害とその対策」と題し講演した。丸山氏は台風の強さ、強風の吹き方、最大瞬間風速の分布と建物被害の分布などを説明。
 ガラスの被害では、実例や風洞実験を基に被害に至るメカニズムを解説した。まとめでは、台風の今後について「進路は東北地方など東寄りになり、強い台風の頻度が増加する。ガラス被害への対策については、飛来物に対する備えが基本。強風被害に強い社会の創生が必要」と強調した。
 九州大学大学院芸術工学研究院の井上朝雄准教授は「ガラス窓の発達史」について話した。「壁」と「窓」の語源を紹介した後、ガラスの種類と組成、板ガラスの製法と二次加工、カーテンウォールの歴史を図柄や写真で詳述。
 井上氏の研究分野である海外の建築史関係ではインドを取り上げ、「インドの建設業界は2025年までに1.4兆ドルに達すると予想されている。都市人口はGDPの75%を占め、68都市の人口は100万人を超える」と市場の有望性を指摘し、「皆さん、来年一緒にインドに行きませんか」と呼びかけた。
 桜設計集団一級建築事務所の安井昇代表(NPO法team Timberize理事長)は、木造建築の設計、木造耐火に関する研究・技術開発の経験を基に「木とガラスのコラボレーション」をテーマに講演した。
 安井氏は、度重なる建築基準法の改正や2010年制定の「公共建築物等木材利用促進法」を踏まえ、「近年、木造ビルが増えている。促進法でもその後、〝公共建築物〟の〝公共〟が取れた。民間のどんなビルでも木で造れるようになった」と述べ、「これからの都市を木造化・木質化する」必要性を問うた。
 既築の木造建築では高知県自治会館(6階建て木造オフィス)などを写真で紹介。その一方、「木造でしか手段のなかった時代」の高層木造建築物の象徴的な例として、兵庫県の姫路城天守閣(6階建て、約2400㎡)を挙げた。安井氏は「姫路城は阪神大震災にも持ちこたえた」と話した。
 安井氏によると、2000年以降の木造耐火建築物の建築棟数(4階以上、防火地域内、1時間耐火構造)は8000棟以上に上り、2015年以降の木造3階建て学校校舎(1時間耐火構造)の建築は10棟程度あるとしている。
 記念講演会は午後5時過ぎに閉会した。
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 日本の国際ガラス年実行委員会によると、12月8日(木)、9日(金)の両日、東京大学安田講堂でガラス年を締めくくる閉会式が開催される。

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